意味ありげな一言を残し、彼女はヒールの音を響かせてさっさと教室を出て行った。

再び施錠された扉を新二が睨みつける中、凛香の声が沈黙を破る。


「ねえ」

「あ?」

「新二君の大切なものって、もしかして……?」

「……バ、バカ! そういう意味じゃねえよ! ただ俺は一度お前を守るって言っちまったから味方してるだけで、深い意味は――」

「……ありがとう」


フワッ、と甘い香りが新二の鼻を撫でた。

不意に意中の相手に抱き締められ、新二の鼓動は早鐘のように高鳴る。


「私は誰にでも平等に、分け隔てなく接したいって思ってた。だけど……新二君はいつだって私だけを見てくれている」

「凛香……」

「それにきちんと応えないのは不誠実なこと。だから……私は新二君が好き」
混じり気のない一言に、新二も真剣に答える。

「俺もお前のことが好きだ。ずっと素直になれなくて……すまん」

「謝らなくていいの。それどころか凄く嬉しいから」

「なあ……本当に好きって言葉の意味が分かってるのか?」

「あー! 新二君、私のこともバカだって思ってるでしょ?」

「そ、そういうわけじゃねえよ! ただ、唐突だったからつい……」


口ごもる新二に、凛香は穏やかに囁いた。


「確かに、誰かを好きになった経験はないよ。でも……この暖かいものがきっとそうなんじゃないかってことくらい、私にだって分かるもん」


そして急に恥ずかしくなったのか、赤くなりながら肩越しに俯く凛香に新二は力強く言う。


「そっか……なあ頼む。その気持ちを卒業するまで、いや卒業してからも忘れないでくれ。もし約束してくれるなら、俺も最後まで戦い抜く。俺もお前に約束する!」

「もちろんよ……! だって、私は新二君のことが好きで……この気持ちが変わることなんて絶対にないはずだから」


その瞬間、『約束』は二人を強く結び付ける。

それは彼らの愛の形であり……同時に、逃れられない鉄の鎖だ。

俺は凛香と約束した。彼女も俺に約束した。

もう、絶対に失敗は許されない。何があっても俺は凛香と二人でここを出て行くのだ。

新二の螺旋がこれまでになく激しく回り、強い輝きを放つ。


「……ありがとう、凛香」



――自分が抱きしめている相手の目にもまた、同様に眩い螺旋が光っていることに気付かぬまま。