『この、女狐が!!』
『ドスッ!!』
凄い音と女子の叫び声らしき声が廊下に響く。
『?』
不信に思った俺はその方向へ行く。
するとそこには…
ボロボロに殴られた痕と、血が少しだけ滲んだ知花が居た。
『おい、どうしたんだよそれ!!』
急いで駆け寄って問い掛ける。
すると下駄箱に寄り掛かって、虚ろな目をした知花が、此方を見ながらこう言った。
『ちょっと…殴られちゃった…あははっ…』
と、無理に笑ってるのが手に取るように分かるような笑い声を、知花が漏らす。
『馬鹿!何で、助けてとか言わねぇんだよ!!』
『だって…』
『だってじゃねぇよ!!無理に笑うな!!泣きたい時位泣けよ!!助けて欲しい時位叫んで呼べよ!!』
と、おもいっきり叫んだ。
『馬鹿なのは海だよ…』
その意味が俺には理解できなかった。
『何でだよ』
『助けてって…叫んだら…あの娘が困っちゃう…』
『何でこんな時まで、人の事ばっかなんだよ!!』
その優し過ぎる所に、自分への悔しさと苛立ちが隠せなかった。
『だって…私のせいだから…私が…あの娘の…嫌がることしたから…』
『何が有ったか知らねぇけど…お前のせいばっかにするな!』
『ううん…』
『少しは自分を大切にしろよ!!』
『だって…』
『だってじゃねぇ!!お前の事が心配なんだよ!』
『何で?…』
『だって…俺ら友達だろ!』
ついに、今まで思ってた事が、破裂する様に心から、口から流れ出て来る。
『え?…何言って…』
『違うのか?…』
それがまるで、今この瞬間、全て否定された様な気がして、八つ当たりの様に問い詰めてしまう。
『うぅ…馬鹿…海の馬鹿…』
それが怖かったのか何なのか、知花は泣きながらそう、言った。
『何でだよ?』
『だって…泣きたくないのに…泣かせようとしてくんだもん…うぅ……っ…』
すると、急に怒りが姿を消して、何だか慰めたい気持ちが芽生えてきた。
『泣きたい時位泣け…助けてってお前が言えば駆けつけてやるだから、俺を呼べよ…知花』
と、頼って欲しい気持ちを素直に打ち明けて、不器用なりに、慰めようとしてみる。
『うぅ……』
『それとも頼りに成んないか?』
『なる!なる!…でも、』
『だから、でもじゃねぇっつってんだろ!!なんなら頼りになるとこ証明してやろうか!!』
と、さっきの奴をボコボコに殴り倒す所を想像する。
すると、
『絶対あの娘ボコボコにする気でしょ?』
と、察されてしまった。
『何で分かった?』と、
驚いて思わずキョトンとしてしまう。
『ふふっ!…あはははははっ!』
と、急におもいっきり笑われた。
だけど、その笑顔が少しだけ可愛く感じて、
少し顔が熱く成った気がした。
『何だよ?急に笑い出して』
『ありがとう!何か元気出たよ次からは大人しく頼ることにするね』
そう、泣きながら笑う顔が、いつもと違って可愛く見えて、
『お、おう…』
とだけしか言えず、上手く返せなかった。
『でも、ボコボコにしないでよ?』
『何でだよ?』
『友達に悪いことはしてほしくはないでしょ?』
その言葉に喜びが込み上げて来る。
『お前…今…俺の事…友達って…』
『先に言ったのは海でしょ?』
『まぁ…そうだけど…』
と、急に恥ずかしさで知花の顔が直視出来なく成って、顔を背けつつ小さな声でそう答える。
『あ、じゃあ、早速頼って良い?』
『何だよ?』と、
何とか平然を保っているフリをしながら俺は短めにそう答えた。
『立てないから保健室連れてって傷の消毒してもらっても良い?』
『しょうがねぇな…ははっ…友達…だもんな!ほらっ』
『わっ!?』
『立てないならこうするしかないだろ?』
何となく意地悪がしたくなった俺は笑顔でわざとお姫様だっこをした。
『だからってお姫様だっこは…』
『てか、何か異常に軽いな…普通に給食食ってるとは思えないな…お前体重何キロだよ?』
と、思った事をそのまま口に出す。
『女の子にそんな、不謹慎な事聞かないでよ!!』
『っ!?悪かったって!だからっ!!たっ!!叩くなよ!!落としちゃうかもだろ!?』
『でも!!』
『ごめんごめんって!!保健室着いたからそこ座れよ!!』
知花に殴られた痛みから、何とか気を反らしつつそう言った。
『分かったよ』
と、不機嫌そうに答えられた。
『染みるかも知れないけど優しくするから大人しくしろよ』
『うぅ…』
『ははっ!そんなに身構えんなよ!マジ、面白いなお前』
思わずその硬直した状態の知花に笑いが溢れた。
『っ!?はっ!早くしてよ!!』
『はいはい…』
照れた知花に促され、取り敢えず消毒する。
『っ…』
染みるのを堪えているのか、少しだけ知花は顔をしかめた。
『はい、終了でも、その足で帰れるのか?』
と、不安だと思っていた事を聞いてみる。
『大丈夫。大学生のお姉ちゃん居るから。』
と、意外な答えが返ってきた。
何だか知花はしっかりしているイメージだから、妹や弟が居ると思っていたが、兄弟がまさか上に居るとは全く想像もしていなかった。
『今日は大学無いのか?』
『うん、そーみたい。バイトしてるけど運良く定休日だし、一応車の免許持ってるし、迎えに来てくれるってさ!』
『なら、良かった』
『とにかく今日は色々ありがとう』
『別に、友達なら当たり前の範囲内だ。まぁ、とにかくその、お前の姉さんが来るとこまで送るから』
『ありがとう!助かる』
こうして私達は二人でお姉ちゃんの所まで向かった。

後日、二人が歩いている姿を見て、二人の仲を噂されるのは、又、別の話…