事故現場を警察から聞き出すのも一苦労だった。
香奈がそこにたどり着くと、そこには花一つ供えられていなかった。
無邪気にじゃれあいながら公園から飛び出してきた数人の子供たちが、その脇を通り過ぎる。
車のクラクション。
「あのー……」
背後から声が掛かり、振り向くと気の良さそうなおばあちゃんがたたずんでいた。
「もしかして……おの男の人のお知り合いかの?」
うなずく香奈。
「よかった。
これだけはどうしても、誰かに伝えとかなきゃって、そう思うてね」
「?」
「あの時のことだけどね、
つらいだろうけど、聞いとくれね。
あの、最後の瞬間。
アタシは見たのよ」
そう言うとおばあちゃんは香奈を見つめ、ゆっくりと、一言一言区切るように言った。
「あの人は、迫ってくるトラックを前にして、
もうどうにも避けられんようになった瞬間、
まっすぐに、前を見てたのよ」
「前を?」
「そう。その視線は、目の前のトラックなんて見てなかった。
あれは、もっとずうっと、遠い、遠いものを見ている人の目だった。
そしてその表情はね、いい、あなた。よく聞いてね。
その表情は、とっても晴々としていたのよ」
香奈がそこにたどり着くと、そこには花一つ供えられていなかった。
無邪気にじゃれあいながら公園から飛び出してきた数人の子供たちが、その脇を通り過ぎる。
車のクラクション。
「あのー……」
背後から声が掛かり、振り向くと気の良さそうなおばあちゃんがたたずんでいた。
「もしかして……おの男の人のお知り合いかの?」
うなずく香奈。
「よかった。
これだけはどうしても、誰かに伝えとかなきゃって、そう思うてね」
「?」
「あの時のことだけどね、
つらいだろうけど、聞いとくれね。
あの、最後の瞬間。
アタシは見たのよ」
そう言うとおばあちゃんは香奈を見つめ、ゆっくりと、一言一言区切るように言った。
「あの人は、迫ってくるトラックを前にして、
もうどうにも避けられんようになった瞬間、
まっすぐに、前を見てたのよ」
「前を?」
「そう。その視線は、目の前のトラックなんて見てなかった。
あれは、もっとずうっと、遠い、遠いものを見ている人の目だった。
そしてその表情はね、いい、あなた。よく聞いてね。
その表情は、とっても晴々としていたのよ」



