彼が脱いだコートの上に、大事そうに玉が乗せられている。

香奈の投げた一投が見事スペアをとった。

「やっりい」

振り返り、彼のほうにⅤサイン。

彼のほうはというとややお疲れの様子で椅子に深く腰掛け、力ない笑顔で香奈に答えている。

香奈も戻ってくると横に腰掛け、飲みかけのコーラのストローをくわえる。

「ぷはーっ。あー楽しい。
 ボウリングなんてすっごい久しぶり。
 ん? どうしたの」

「いや、ちょっと小休憩……」

「見かけによらず、案外うまいんだね」

「いやいや」

と頭をぼりぼり。

「たまにはこうやって外に出て体動かさないとね。
 悪玉コレステロール溜まっちゃうよ。
 セルライトできちゃうよ。
 その年で中年太りなんてやでしょーあたしはやだな」

彼、頭をぽりぽり。

「これからはこうやって時々体動かそうよ、ね」

彼の顔を覗き込む。彼は微妙な笑顔。

それを見て香奈の表情が少し曇る。

「もしかして……余計なことした?」

彼は少し慌てて首を振った。

「いやいや、そうじゃないんだ。
 ただね……」

「なに?」

彼は微笑んだまま、遠くを見るような目になった。

「僕といるとさ、君まで変な目で見られちゃうよ」

気がつくと先ほどまではすべてのレーンでゲームが行われていたというのに、今は香奈たちの隣のレーンは空き、皆少し離れたところで2人を見てなにやらひそひそと囁き合っている。

中には露骨に笑いながら2人を指差している者もいた。

「ね、だから外にいるときは、なるべく僕とは離れて歩いたほうが……」

「気にしないもん」

強い口調。

彼がはっとして香奈を見る。

「あんなの全然気になんないよ。
 言いたい人には言わせとけばいいの。
 もうあんなの、無視よ無視!」

そう言うと香奈はさっと立ち上がる。

「さ、もう1ゲームいきますかっ」

玉を選び、レーンへと向かう香奈。

その姿を彼は愛しそうに見つめた。