”早いとこなにかの罪状でっちあげて捕まえとくべきよ。
  なにかあってからじゃ遅いっての”
 ”みんなが勝手にとやかく言ってるだけでしょ!
  よく知ろうとしないのなら、ほっとけばいいじゃん!”


香奈、強く彼を見つめて、

「でも、あなたにそれができるのかしら。
 そんなに人を救う余裕にあふれてるの?」

言った後で、しまったと言う表情。

彼の手が止まる。

顔を上げ、この日初めて香奈を見た。

香奈は気まずそうに上目使いで彼を見て、

「な、なによぉ」

彼はそんな香奈を優しい笑みを浮かべたまま真っ直ぐに見つめる。

「僕は充分に、有り余るほど幸せなんだよ。
 しかも君までいてくれる」

息をのむ香奈。彼は香奈を見つめたまま続けた。

「どうも僕は君のことが好きになったみたいなんだ。
 君の目も、
 鼻も、
 ほっぺたも、
 声も、
 においも、
 みんな好きだよ」

「なななに言ってんの、急に。
 うぬぼれやね。
 私があなたの事好きだと思ってるの?」

いきなりの告白に不意をつかれた香奈。

顔が赤くなる。

彼はゆっくりと首を横に振り、

「君の気持ちなんてわからないよ。
 ただ、君はそこにいてくれる。
 それだけでもう、僕は充分に幸せなんだ。
 それだけで、何でもできるような気がしてくるんだ」

そう言うとそっと微笑み、視線を落としてまた玉を磨きだす。

香奈は何も言えなくなってしまった。