「もうちょっと! 聞いてくれてんの!?」

「んー、聞いてるけどさあ……」

「聞いてないじゃん」

「聞いてるよぉ」

香奈の方を向くのぞみ。

「だけどあたし、そのお母さんの気持ちわかるもん」

「ええっ! 命の恩人だよ?
 子供の。その人に暴言だよ?」

「だってさあ、あの人うわさあるんだもん」

「うわさ?」

「うん」

「なんて?」

「んー、なんかさ、むかし子供とかさらった事あるらしいよ」

「えっ! それほんとう?」

「うん、みんな言ってるもん」

「……」

「だからさ、そのお母さんもその子さらわれると思ったんじゃない?」

「それっていつごろの話?」

「え?」

「その、子供がさらわれたっていうの」

「んー、良くは知らないけど……」

「誰から聞いたの」

「んー、だれだっけ……」

「なんもわかんないんじゃん。
 証拠はあるの、それ。その話がほんとだっていう」

「知らないよそんなの。ムキんなんないでよ。
 でもこの辺じゃほんと有名な話なんだから。
 みんなが言ってるんだから確かだよ」