吹き上がる返り血を避けるようにして、鋭利な大剣の切っ先を抜くと、ジェスターは、間髪入れずに、横から来て刃をふりかざした男の腹を、深く鋭く薙ぎ払った。

まるで噴水のように吹き上がった鮮血が、凍った地面を紅色に染めあげていく。

凍てついた夕闇の森は、にわかに鮮血と死臭に満たされた。

燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉の両眼が、どこか魔物じみた様相で爛と輝く。

若獅子の鬣のような見事な栗色の髪が、吹き付ける冷たい風に乱舞し、迅速で翻される金色の刃が、容赦なく眼前の輩の肩を胸まで斬り下ろした。

血にまみれた金色の刀身を引き抜き、吹き上がる血しぶきをかわしながら、振り返り様背後にいた輩の腹をしたたかに蹴りあげる。

冷たい地面に揉んどり打った輩を飛び越えて、横からの斬撃を金色の刀身で弾き返すと、鋭く輝く魔剣の切っ先で、相手の喉からうなじまでを一気に突き貫いた。

鈍い音と共に吹き上がった鮮血が、冷たい虚空に紅の帯を描く。

この時点で、多勢であったはずの屈強な男達は、すでに二人しか立てるものはなく、他の者は
皆、絶命して冷たい地面に倒れ伏しているか、辛うじて命をとりとめていても、もはや戦えるはずのない深手を負っているかであった・・・

まだ年若い青年の振るう剣の神技(しんぎ)に、戦慣れしていよう屈強な男達の顔が、にわかに蒼白になった。

「き、貴様・・・一体何者だ・・・っ!?」

「俺が誰だろうとおまえらには関係ないだろ・・・来るならこいよ・・・ただし、行き先は地獄だがな」

冷たい風に揺れる見事な栗色の前髪の下で、燃え盛る緑の炎のような鋭い両眼が、にやりと笑う。

真っ直ぐに伸ばされた血染めの剣の鋭利な切っ先が、落日の光を受けて鋭く煌めいた。

その姿が、禍々しい魔性にでも見えたのか、生き残った二人は、背筋をぶるりと震わせると、慌ててきびすを返し、一目散に森の中へと逃げおおせてしまったのである。

そんな無様な輩の後ろ姿を見送りながら、広い肩で小さく息をつくと、彼は、実につまらなさそうな顔をして、金色の刀身に付着した血を、剣を振るって払ったのだった。

「腑抜けが・・・」
そう呟いて、手に持ったままでいた鞘に金色の大剣を納めると、彼は、ふと、ゆっくり背後を振り返ったのである。