不意に、その鋭敏な六感に、複数の人間の殺気立つ気配が触れたのである。

明らかに武器を取っていようその気配に、彼の鮮やかな緑の両眼が、閃光の如く煌めいた。

利き手が素早く傍らの剣に掛かる。

「なんだ・・・・?」

「大鴉(ガシャ)が居なくなったゆえ、さっそく、私の力を欲する異国の輩が現れたのだろう・・・いつもの事だ」

銀糸の髪をさらりとかきあげて、マイレイはなんの気無しにそう言って笑った。

「・・・・おまえ、その異国とやらに行きたいのか?」

金色の大剣を鞘ごと手にして立ち上がったジェスターが、その燃え盛る炎のような緑玉の眼差しで、真っ直ぐにマイレイの澄んだ銀水晶の両眼を見つめ据える。

マイレイは、細いその肩で小さく溜め息をつくと、次第に近付いてくる複数の足音に耳を澄ませながら、凛とした強い口調で言うのだった。

「我等クスティリン族の術は、戦に使うためにあるのではない・・・戦などに借り出されるぐらいなら、死んだ方がましだ」

そんな彼女の言葉に、ジェスターは、その凛々しい唇でか愉快そうに笑った。
そして、片手に持っていた蜂蜜酒の杯をマイレイに渡すと、怪訝そうに眉を潜める彼女の肩を軽く叩いて、ゆっくりと扉の方に足を向けたのである。

「そこにいろ」

「何をするつもりだ?」

そんな彼女に振り返る事なく、扉を押し開けた彼の長身は、凍てつく夕闇の中へと消えて行った・・・・