金色(こんじき)の大剣の鋭い切っ先をこちらに向け、悠然とそこに佇む、異国人と思しきその青年。

彼は、無言のまま、若獅子の鬣(たてがみ)の如き見事な栗色の髪を、吹き付ける冷たい風に揺らしながら、どこか不敵な表情をして、真っ直ぐに彼女を見つめやっている。

その前髪から覗く鋭い二つの両眼は、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉(りょくぎょく)の瞳。

それは、古より、隣国大リタ・メタリカ王国で、異形と呼ばれる魔性の眼差しであった。

「クスティリンの術者か?攻撃の呪文をもたない者が、こんな物騒な場所をむやみやたらに歩くもんじゃねー・・・」

やけにぶっきらぼうな口調でそう言うと、彼は、構えていた金色の大剣を、慣れた手つきで背鞘に納める。

そして、その長身に羽織られた濃藍のローブを揺らしながら、ゆっくりと彼女に背を向けたのだった。

そんな彼の広い背中を、彼女は慌てて呼び止める。

「待て・・・・!そなた・・・魔法剣士か・・・・?」

その言葉に、彼は、肩ごしに僅かに振り返ると、実に愛想の無い表情と口調で答えて言うのだった。

「・・・・だったらなんだ?」

「そなたに礼を言いたい・・・何度追い払っても、しつこく居付いていた魔物ゆえ、私も困り果てていたのだ・・・今のクスティリン族には、魔物と対等に渡り合える男などおらぬからな」

別段、気分を害した様子もなく、彼女は、妖艶な唇で小さく微笑すると、綺麗な頬にかかる銀糸の髪を片手でかきあげながら、静かに彼の傍らに立つ。

彼は、形の良い眉を怪訝そうに潜め、長いローブの裾をゆるやかに翻しながら、体ごと彼女に振り返った。

そんな彼の緑玉の瞳を、銀水晶の瞳で真っ直ぐに見つめながら、彼女は、沈着な表情と口調で言うのである。

「私の名は、マイレイ・・・そなたのその瞳・・・リタ・メタリカでは、異形と呼ばれる眼差しだ・・・見事な色だな・・・・」

クスティリン族の魔法使いマイレイは、妖艶な唇だけで小さく笑う。

吹き付ける風に、白い花びらの如き雪が舞う、それは、冬近い日の事であった…