午後5時。夕暮れを迎えた遊園地は、人がまばらだ。

閉園時間まで、あと一時間。この手を離すまで____あと、一時間。

先生はきっと、そんな私の気持ちに気づきはしないだろうけれど。

嫌いだと私が宣告した人の横顔は、めいいっぱい楽しんだ人の顔だ。確かに先生と過ごした時間は、とても楽しかった。

ぎゅうっと、先程先生がくれた、くまのぬいぐるみを抱きしめる。別に欲しいと言ったわけじゃないけれど、先生は本当に人をよく見ているらしい。

「これでいいの?」

と、声をかけられた時にはもう、先生はレジに向かっていて。

……今日は、本当に、楽しんでしまった。

「あ」

ふと、先生はそう声をあげた。つられて顔をあげると、目の前には喫煙所があった。

思えば今日は私に付き合ってもらいっぱなしで、先生のしたいことをしてない。

「吸ってきますか?」

「……じゃあ、お言葉に甘えて一本だけ」

そこで待ってて、と先生が言うので、私は喫煙所近くで待つことになった。

くりっとした目が特徴的な、くまのぬいぐるみ。私はその目をまっすぐ見つめながら、ふと思い出した。

確か、ぬいぐるみにリボンを巻いてあげた日が、誕生日になる、みたいな話。

「でも、今無いしなぁ……」

そうぼやくと、

「じゃあ、代わりに名前、つけて」

そんな声が聞こえてきたような気がした。

私はくまをまっすぐと見る。

「名前かあ……」

少しだけ悩むフリをして__本当は、今日ずっと呼びたかった名前を、呼んでみた。

「彼方、さん」

呼んでみてからなんだか照れ臭くなって、つい、くまのぬいぐるみを抱きしめる。

そんな私を、先生が後ろから抱きしめた。

「えっ……あ、のっ」

ふわり、と煙草の匂いをさせた先生の体温。狂いそうになるくらい熱く感じる、私を少しずつ壊していく熱。

それは、私の先生への気持ちが、変わっているから、だろうか。

「ねえ、最後に観覧車乗らない?」

先生は私のことをさらに強く抱きしめながら、囁いた。

私がコクリと頷くと、先生はありがとうと嬉しそうに笑った。

__最後。このデートも、もうすぐ、終わる。