大盛況で終えた一日目よりも、二日目はもっと凄かった。

というのも、明らかに先生目当てのお客さんばかりなのだ。客寄せパンダとして先生は立派な成功を収めていたが、代償として私たちの負担は大きかった。

なぜなら、先生が人のあまりの多さに、写真を撮る条件にたこ焼きを買うこと、と義務付けたから。

朝からお昼まで、ずっと立ちっぱなしの私もいい加減に疲れていた。代わって欲しいところだが、それを言う暇すらない。

「はい、ありがとうございます」

多分、私はアルバイトにはまるで向かないだろうなと思いながら、たこ焼きを回す。朝ごはんはパンしか食べていないうえに、水分補給も疎かだ。

外の気温は、九月に入ったとはいえ、まだ八月の余韻を残している。

本来ならこの時間、一応私は休憩なのだけれど、代わってくれるはずの子が、いつまでも帰ってこない。

だがお客さんには、そんなこと関係ない。

「たこ焼き四ついいですか?」

「はい、1200円で__」

心よりも先に、私の体は限界だったらしい。ふらりと、体が倒れていく。

「東さん!」

隣にいたクラスメイトが、悲鳴じみた声で私を呼ぶ。

意思に反して倒れていく体を、不意に誰かが抱きとめてくれた。

__ああ、この匂い。

「せん、せい……?」

「喋らないでいいから。保健室行くよ」

先生は私の膝裏に腕を差し入れ、そのまま軽々と抱き上げた。俗にいう、お姫様抱っこだ。

おかげで、私は羨望の眼差しを受けることになり、なんとなくいたたまれない。

「あと、よろしくね?」

先生はクラスメイトにそういって、私を連れていく。私は見えないところで少しだけ、先生の白衣を握った。

保健室に着くと、生徒はおろか、先生すらいなかった。救護班が校門前の本部テントにあるからかもしれない。

空いていたベットに下ろされると、どっと疲れが押し寄せてきた。

「朝ごはんは食べたの」

先生はいつもより若干厳しい眼差しで、聞く。

こくんと頷くと、先生は間髪入れずに何をと問い返す。

「パン、です」

「それで昼までなんて無理だって、普通わかるよね」

「でも……河野さんが、帰って、来なくて」

自己犠牲から起こったことだし、先生が言うのももっともだ。それに、河野さんが帰ってくるはずないことだって、私が一番わかっていた。彼女は今も私が倒れたことにすら気がつかずに、遊んでいるに違いない。

別にそれにどうこう言うつもりもない。頼まれた時からわかっていたのだから。

だから、結論から言えば、ここで休んでいる暇なんてない。

「僕、レイのそういう責任感の強さは尊敬するけど」

先生は近くの椅子を引っ張ってきて、腰掛ける。

「返事を聞く前に、レイに死なれたら困るんだよ」

「こんなことで死にませんよ……」

「だとしても、レイに何かあったら心配なんだ」

そっと重ねられた手のひらは、先生と触れたどの時よりも熱い。

「……すみません」

きっと先生は、ずっと私のことを見ていたのだろう。そうでもなければ、あの時私のことを抱きとめられたはずがないのだ。

「食欲はあるの?」

「あります」

「何食べたい? なんか買ってくるよ」

「じゃあ、焼きそばと、あとお茶もお願いします」

わかったと言って、先生は立ち上がる。

先生を見送るはずだったのに、私は、気がつけば先生の腕を掴んでいた。

「……離してくれないと、買いに行けないけど」

先生は無表情に私が掴んだ腕を見ている。

「わかって、ます」

だけどこの手を離せない。一人になれていたはずなのに、一人になるのが、怖い。

なのに素直に、いかないでと言えるわけでもない。

「僕は、レイのこと、よくわからないよ」

不意に、先生はこちらを見ずにつぶやいた。

「構ってあげても振り向いてくれないのに、構わないと拗ねる。僕のことを嫌いって言ったと思ったら、今度は気にしないで、なんて」

「それは……」

「レイは曖昧だよ。どこまでも」

こんなこと言いたくないけど、と先生は続ける。

「本当は、こうも思ってるよ。君が答えを出さないんじゃないかって」

「そんなことは、しないです」

曖昧だとか、言われなくてもわかっている。私は昔から誰よりも優柔不断で、その上主張できない子だった。

だけど、これだけは言いたい。

「私は、約束は守ります。嘘もつきません」

先生の手を離す。お願いします、と言うと、先生は先ほどの話なんてまるでなかったかのように笑って、出て行く。

文化祭も二日目。このあとテスト週間がきて、そうしたらその次の週、先生と、秋祭りだ。

そこまでに、白紙の解答用紙を、埋めなければいけない。

ふわりと吹き込んだ風が、私の頬をさらりと撫で上げた。