彼は不器用に私を甘やかす




なんだこの光景。


目の前にはお世辞にも綺麗とは言い難い古めのアパート。
一般家庭のお家が集まる普通の住宅街に現れた黒塗り高級車。
制服を着たままの女子高生に恭しく頭を下げる謎の人物、佐々木。


『・・・とりあえず家、入りますか?』



目立つ。とにかく目立つ。
ご近所のおばさま方がちょっと見てる気がする。
早く逃げたい。




『広くはないですけど座ってください。』


「ありがとうございます」と佐々木さんは丁寧に椅子を引き座る。

ぉお、所作が綺麗だ。


『お菓子は無いし、お茶も麦茶ですけど良ければどうぞ。』

「ありがとうございます。」



とりあえず私も向かいの椅子に座りお茶を飲む。



『えっと、来ていただいて悪いんですけどこの後バイトがあって10分程で出なきゃなんです。』

「バイトなら今日は出勤できないと伝えてあります。許可も頂いてます。ご安心ください。」


なんだって???
バイト先に勝手に連絡して休みにした???


「出来ればこの先アルバイトは辞めて頂きたいのですがそれはまぁ、おいおい。」

『いやいやいや、待ってください!困ります!』


何がなんでもバイトは辞められない。



何故なら父は私が子供のころに「マグロを釣りに行ってくる。」と言って帰ってきてない。多分マグロに食べられてる。

それから笑顔で頑張り続けてくれた母は数ヶ月前に病死。家計の足しになればと頑張ってたバイトは私の唯一のライフラインになった。

高級車乗り回せるような人間には分からないかもしれないけど貧乏学生に『バイト辞めろ』って言うのは『死ね』も同義だ。

大の大人がなんてこと言うんだ。