日曜日、母さんに連れられて来たお店は、一日2組限定の高級料亭。
食事会前日に、先方からプレゼントされたオーダーメイドのスーツに身を包んでいる俺は落ち着かない。
和服姿の綺麗な年配の女性に通された部屋で、俺は一瞬息を呑んだ。
年齢が40代といった感じのいかにも社長という貫禄のある男性の隣に、見間違える筈の無い人の姿を見つけた。
俺が驚いて入口で固まっていると、
「あ~ちゃん?何してるの?早く入りなさい」
何も知らない母さんが俺を呼ぶ。
俺が慌てて母さんの隣に座ると、目の前で微笑む人物に頬が赤くなるのが分かる。
慌てて視線を落とすと
「葵君、初めまして。私は君のお母さんとお付合いをさせて頂いている秋月幸助です。
 隣に座っているのは、私の息子の翔です」
低くて響く声に顔を上げると、秋月先輩と目が合ってしまい慌てて視線を落とす。
「幸助さん、翔君。私の大切な一人息子の葵です。あ~ちゃん、ご挨拶なさい」
母さんの言葉に慌てて顔を上げ
「秋月先輩のお父様、初めまして。神崎葵です。秋月先輩、こんにちは」
ガチガチに緊張して挨拶すると
「翔?お前、葵君と知り合いなのか?」
驚いたように、母さんの再婚相手の秋月さんが先輩の顔を見る。
「ええ、葵君とは同じ学校ですよ。父さん」
穏やかに微笑む先輩に
「何だ、それなら言ってくれれば良かったのに…」
秋月さんが先輩にそう呟くと
「いえ、私も葵君が来るまでは、京子さんのお子様が葵君だとは知りませんでしたから」
終始笑顔で受け答えする先輩の顔を、思わずぽ~っと見てしまう。
「あ~ちゃん?」
うっとり先輩を見つめる俺に、母さんが疑問の視線を投げる。
俺がハっとすると
「私は蒼介君と友達なんですよ」
母さんに先輩がそう答えていた。
「え?蒼ちゃんの?」
「はい。それで、葵君とは何度かお話させて頂いておりまして」
先輩の言葉に、母さんが笑顔を浮かべた。