「あの、すみませんお帰りのところ」

「わっ、安尾さん!どうしたんですか、こんなところで」


エレベーターを待っている彼女達に声を掛けると、驚いた目で見てきた。


「あの…失礼ですけど、佐伯さんと中村さんも今回の件の担当ですよね?」

「あー、はい。でも、大体は百合川さんがやってるんで」

「……中村さん、この前百合川さんに転送してもらうはずだったメール、誰に送ったんですか」

「それは……」

「今後の仕事もそうやって、別の誰かに任せっきりにするんですか」

「は?」

「百合川さんが担当を任せられているのは、信頼に値するからです。自分に与えられた仕事にちゃんと責任を持っています。社会人として当たり前の事かもしれませんが…中村さん、自分が起こしたミスを、自分で何とかしようとしましたか?佐伯さんも、同じ仲間だと思って仕事をしていますか?僕は取引相手として、そのような方達に仕事を任せたくはありません。僕だけでなく、きっとどの会社もそう思うはずです」

「……」

「お二人にとってはただのその辺の会社の小さな仕事かもしれませんけど、うちにとっては時間を掛けて皆で作り上げてきたものです。商品をよく知ってもらう為に、興味を持ってもらえるように、デザインを考えてほしい。たった一瞬かもしれないけど、デザインがその商品を大きく変えるんです。その事をわかって頂きたい」


ぐっと握り締めた手に力を入れる。

誰かに、自分の意見を言うのは苦手だ。

小さい頃からそれはもう、気の知れた相手にしか自分の意見は言えなかったし、それ以外で意見を言わなければいけないような場はできるだけ避けてきた。


だけど大人になって、そういうわけにはいかないと知った。


今がそうだ。

自分の頭で考えて、自分の意志で動き、自分の意見を言う。そうしないと、自分の望むものは手に入らない。