彼女から連絡があったら、俺の携帯を教えて直接連絡をもらえるようにとアツシさんに伝えておいた。
ヨシザワ産業さんにいる大学時の先輩と運良く連絡が取れ、運良くそのメールの送信相手というのが先輩の直属の後輩らしく、今回の件は大目に見てそこの中だけで留めておいてくれるとの事だった。
一方で会長は想像通りお怒りで、社長とうちの部長と営業部長と俺と江藤で何とかなだめ、明日の午前中までに必ず用意するという事で話はついた。無謀ではあるが言われた以上はやるしかない。
ちょうど彼女から連絡があったのでその旨を伝えると、電話越しの彼女は心底ほっとしたように、「よかった、ありがとうございます」と言った。
「肝心のデザインなんですが、他者に漏れてしまった以上先方がデータを消してくれたとしてももう使えません。また一からやり直してもらう事になります」
「はい、承知してます。大変申し訳ございません」
「ちょっと厄介なのがうちの会長でして…会長は期日にうるさい人で、少しでも遅れる事を許しません。また、慎重深く確認を何よりも重んじる方で、発注前には必ず会長の目を通さなければなりません。時間がないので、一度で会長を納得させられるものを作らないと」
「は、はい」
「前のデザインはシンプルで、最近の若い人に向けたデザインで興味を持ってもらえそうなものでした。でもうちの会長が言うには、少しシンプル過ぎると。確かに、そうかもしれません。今回の商品は幅広い年代の方に手に取っていただきたいと思って考えてきたものです」
「はい」
「自分達がワクワクしながら考えて楽しんで造りあげたものを、皆さんにもぜひその楽しさを共有して欲しい。そう思っています。百合川さん、ぜひ、ワクワクするデザインをお願いします。もちろん自分も手伝います。無理を言って申し訳ありませんが、百合川さんならできると思ってのお願いです。ぜひ百合川さんにお願いしたい」
時間がない中で前よりもいいものを、なんて、無茶難題を言っているのはわかっている。
でも、通常業務の合間合間で何とか時間を作って、時間をかけて丁寧に作りあげてきたものだ。
商品を手に取ってもらうのは、中身の製品よりも外装が大きな決め手になる。もちろん全てとは言わないが、良い物が、外装のせいで手に取ってもらえないという事は結構あるそうだ。
それだけ、デザインは大切なのだ。
信頼できる人に託したい。
彼女なら絶対できる。根拠のない自信だが、そう強く思った。


