「安尾、聞いたぞ。データ間違えて送ったのどこの会社だって?」


珍しくアツシさんも慌てた様子で聞いてきた。
俺も一息ついて答える。


「ヨシザワ産業さんです」

「よりによって同業かよ。まああっちは大手だし、変に使われたりはしないだろう。うちのもまあ商品は社長と社員の息抜きであって本命じゃないけど…痛いな」

「はい」

「社長はMSMさんに甘いから今回の事は厳重注意で済むかもしれないけど、会長はわかんねえな」

「え?」

「社長って婿養子なんだよ。だから社長の甥でも、会長には血の繋がりもないからそんなにこだわる必要もないわけ。まあうちはほとんど無償で頼んでるから最悪取引がなくなっても困らないかもしれないけど、MSMの立場から考えたら問題はヨシザワ産業だな」

「そうですね…あそこは色々と厳しいらしいですし。ヨシザワ産業さんにとって、今回の事はヨシザワ産業さんに影響がなくても、MSMさんは転送ミスをして情報を漏らしてしまう会社っていうイメージが付きますよね」

「あの会社は信頼関係第一だからな。大手だし、取引中止になったらMSMは相当の痛手なんじゃないのか」


彼女の顔が浮かぶ。

今回の件は彼女のせいじゃない。部下のミスは上司の責任だが、中村さんは彼女の部下でも何でもない。会社内では先輩かもしれないが、デザイン部の中では中村さんの方が先輩にあたる。


それでも彼女は、きっと自分を責めるのだろう。



「俺、会長のところと、ヨシザワ産業さんに行ってきます」

「え?何でお前が」

「ヨシザワ産業さんに大学の時の先輩がいるんで、今回の件確認してみます。会長は何とか説得します。できる事はやるつもりなので」

「……そうか。頑張れよ、俺もできる事はするよ」

「ありがとうございます!」


 取引先のミスのフォローに走るなんて、全くもって馬鹿だ。でも俺は、彼女の力になりたい。