金曜日、予定通り仕事を終え、アツシさんと共に駅から10分程の居酒屋に向かった。

幹事は営業の江藤が引き受けてくれたので、遠慮なく頼む事にした。


開始予定の19時少し前に着き、案内された二階の座敷に入ると、彼女がいた。



「安尾さん、岩田さん、お疲れ様です」


顔合わせの時は後ろで髪の毛を束ねていたけれど、今日は下ろしていた。
ふんわりとウェーブがかかっていて、昔もから可愛かったが、昔より化粧も薄くなったのか少し柔らかくなった印象だ。

高校生の時は髪の毛はもっと長かったけど切ったんだなあ、と思いながら席に着いた。


目の前には、MSMさんの若い女性社員達。今回彼女と一緒にデザインを担当している、中村さんと佐伯さんだった。

ジロリと俺達を品定めする様に鋭く見てくる。


彼女はどこだ…と見回すと、一番下座で皆の注文を受けていた。


考えるよりも先に立ち上がろうとすると、アツシさんに「どこ行くんだよ」と腕を掴まれた。



「いや…百合川さん、あっちで忙しそうですし、俺も担当なので手伝わないと…」

「いいじゃないですか。百合川さんの周りの席、もう埋まってますよー」


中村さんに言われて、もう一度彼女を見る。

確かに彼女の周りは、うちの営業の奴らとMSMさんの若い男性社員で埋まっていた。


「あ…そうっすね…」


そうだ。

彼女はいつでも俺に優しかったから昔から俺は勘違いしていたけれど、彼女はあっち側の人間だった。



自分の席に座った俺に、「まあ飲めよ」とアツシさんがどんどんビールを注いでくれる。


目の前の中村さんは肘をつきながら、何の脈絡もなく「百合川さんて彼氏途切れた事なさそうですよねー」と言った。


いきなり何を言いだすんだと驚いて、俺は中村さんを凝視した。

少し離れた場所の彼女も驚いた顔をして中村さんを見ている。


「ありますよ普通に。今いないですし」


しかしすぐに、にこっと笑みを返す。



「つい最近までいたじゃないですか、ハイスペックな彼氏。確かどっかの会社のCEOか何かでしたよね?何で別れちゃったんですか?でもいいなあ、百合川さんてモテるから絶対すぐにまた彼氏できるじゃないですか!ちなみに百合川さんて今までに彼氏どれくらいいたんですかあ?」


よくもまあこんな席でそんなプライベートの事をズカズカと聞ける。その神経を疑うが、俺は何よりも彼女が気になった。

周りも中村さんの勢いに引いていたが、彼女は先程同様、にこっと笑っていた。