ハローくんは続きを言わなかったけど、それだけで心はまだしっかり彼女のことを思っているんだと柚月が悟るには充分だった。
「ハローくんはそんなこと言うけど、私はそんなハローくんでも好きだよ」と言いたくなったけど、そんなことこんなタイミングで言えるわけがないから、柚月は代わりに伝える。
「そんなこと言うけど、ハローくんは優しい人だと思うよ」
だけどそんな気休めは必要ないと言うように
「全然優しくない。ゆづちゃんは、本当の俺を知らないんだよ」
と切り捨てた。
柚月はハローくんとだんだん打ち解けていたような気がしていたけど、こんなにはっきり境界線があったのかと気づかされ、虚しくなる。
それからみぞおちの辺りが熱くなり、
「本当の俺って何? 私の目の前にいるハローくんは偽物なの? じゃあ本当のハローくん見せてみてよ」
とムキになり言い返すが、見つめ合うとハローくんがフッと笑った。
「ゆづちゃんが怒った」
「え?」
「怒った、怒った」
「お……怒ってはないよ」
「ごめん。冗談だよ。じゃあ俺そろそろ帰ろっかな」
怒っても向き合う気はないし、もうその話はしたくないとはっきり言われたみたいで、すぐに柚月は冷静になり淋しくもなった。
「……うん。そうだね」
太陽は西へと傾き、空が薄紅色に染まっていく。本当はもっとこの景色の中に君といたい。だけど、この時間を繋ぎ止める言葉が出てこなかった。