Super Star

〜蓮Side〜

「よっ、鈴木くん」

そう言って、俺に軽く右手を上げる目の前のイケメン、加藤大翔。

若干18歳にして、日本だけではなく世界で顔を知られてる大物俳優。

そんな彼に、俺はついさっき声をかけられて彼について行くと、小さな空き部屋についた。

「僕に何か用ですか?」

いや、この人が俺を呼んでわざわざこんな部屋に来る理由が、一つだけ思い浮かぶ。

それにその理由しかありえないのだけれど、一応質問してみた。

「そんなに畏まないでいいよ。ってか、結月の話しようぜ」

加藤さんの口から出てきた名前にピクリと反応する俺。

「な、鈴木くん。結月の話、聞かせてくんない?」

「加藤さん……?」

演技について、この人から学ぶことはたくさんあると思う。

大物俳優のこの人と共演できるこの機会に、演技を盗みたいと思う。

けれど正直、俳優としての鈴木蓮ではなく1人の男としての俺は、今この人と関わりたくないと思ってしまう。

結月の話をこの人とするのは嫌だ。

結月の婚約者であるこの人と話すのは嫌だ。

「いいな、今日も学校で一緒だったんだよな?」

俺の気持ちを知ってか知らずか、加藤さんは話始める。

「はい、そうですよ」

それに素直に答えてしまう俺。

「な、2人はどんな話すんの?すっごい気になるんだけど」

今日は確か……

「加藤さんの話しましたよ」

「えっ、本当か?」

そう言って目を輝かせる加藤さんに、

「はい」

と俺は答えた。

「加藤さんと結月って、本当にお似合いですよね」

俺の開いた口から、言葉が矢継ぎ早に発せられる。

「鈴木くん?」

「結月、今日も加藤さんの話をしながら顔真っ赤にさせてて、かなりかっ……」

"可愛かった"

そう言いそうになって、口をつぐんだ。

「真っ赤な結月かー。可愛いだろうな」

加藤さんは、俺が言葉を切ったことには目もくれずに、そう言って遠くを眺めた。

「結月かなり可愛いから、眼鏡かけててもおさげにしてても、可愛いよな」

「……」

俺は返答に困った。

結月は可愛い。

本当に可愛い。

初めて目にした時は、こんな髪型してスカート丈も長くして、正直かなりダサいと思った。

でも、そんなダサいと思われた格好も今では可愛く見えてしまう。

「それに性格いいし、透き通った目してるし」

あぁ、そうだ。

結月の眼鏡の奥に見える目は、いつも輝いていて綺麗で、俺は吸い込まれそうになる。

けれどそんなこと、この人には言えない。

言ってはいけない。

口にしてしまったら最期。

俺が心の奥底にしまうと決めた想いが、この人にバレてしまう。

なのに、

「鈴木くんが結月に惚れるのも無理ないね」

どうして。

「何言ってるんですか?加藤さん」

俺は笑ってそう言った。

「鈴木くんさ、好きなんだろ?結月のこと」

そう言う加藤さんに、

「好きですよ。結月は、僕の大親友ですからね。だから結月のこと、幸せにしてやってください」

俺は精一杯の笑顔で言った。

「ふーん。顔、引きつってるけど」

そう言われて、俺はギクリとする。

「俺に嘘つくのはいいけど、自分自身に嘘はつくんじゃねーぞ。ってこれ誰かにも言ったけどな。ま、その程度の気持ちなら、俺がもらっとく。じゃあなっ」

そう言って加藤さんは部屋から出て行った。

部屋に1人残された俺は、今までのことを振り返ってみる。

高校生になってから、今までの思い出を…

一年前、俺が高校生になったばかりの時、教室に行くといつもキャーッという女の子たちの悲鳴や、

「今日も蓮くんかっこいいわ」

「蓮くん、こっち向いてぇ」

などの言葉が、毎日のように聞こえてきた。

かっこいいと言われて悪い気はしないけれど、

「蓮くんって王子様みたいよねー」

「本当に憧れる」

俺は決して、王子様なんかじゃない。

けれど周りからそう言われ続けると、王子様みたいな俺でいなくてはいけないような気がして、だんだんと憂鬱な気持ちになっていった。

さらに去年の夏、俺が出演した映画が大ヒットし、俺の名前が世間に広まっていくと、この学校では俺の名前だけが一人歩きをし始めて、俳優・鈴木蓮を見たいという女の子たちが教室に集まってくるようになった。

そしていつの間にか、周りから"蓮様"なんて呼ばれるようになり、

「あ、蓮様だぁ!」

「蓮様がいるわ!」

そう呼ばれる回数も増え、俺は仕事の時だけではなく、学校でも完璧な鈴木蓮を演じるようになった。

そして俺は学校というものにだんだんと嫌気がさしてきた。

それで今年、二年生になった俺はまたあの空間に入るのが嫌で、学校に来ても教室には行かず、ずっと屋上で過ごすようになったんだ。

ここの理事長は一応は俺の親だし、単位とかはなんとかしてくれるんじゃないかと期待をして、そんな生活を二ヶ月以上続けているとある日、屋上の扉が開く音がした。

はじめは、理事長が来たんだと思った。

そろそろ授業に出ないことを説教されるんじゃないかって。

けど違って、一人の女の子がいたんだ。

女の子だとわかった時、俺が屋上にいつもいることがとうとう学校の女の子たちにバレたんだと思った。

最悪だ。

唯一の俺の気を休める場所まで取られてしまったら、俺はどうすればいいんだ。

そう思った。

けれどその女の子は俺に興味なんてなくて、拍子抜けした。

そいつは黒の髪の毛をおさげにし、オレンジ色の奇妙な眼鏡をかけて、スカート丈は異様に長くて、見た目からの第一印象はただただ、ダサいやつ。

けれど話しやすい奴で、いつの間にかそいつにユズさんのことまでも語っている俺がいた。

不意に笑ったそいつの笑顔は、明るくて可愛かった。

それが結月との出会いだった。

結月は毎日昼休みに屋上に来て、自然と俺たちは一緒に弁当を食べるようになった。

そして、俺がユズさんの話をして結月がそれを聞く。

それが当たり前になっていった。

結月の前では気兼ねなんていらないし、安心できるし、飾らない俺でいることができた。

そんなある日のこと、俺は結月がどうして毎日屋上に来るのか気になって、もしかして友達がいないのかって聞いたら、結月はしどろもどろになった。

それで話をして、俺は結月と自分が同じクラスだと気がついた俺は、次の日二年生になって初めて教室に行った。

俺が教室に行くと、相変わらず騒がれたけど結月が同じクラスなんだと思うと耐えられた。

しばらくして結月が教室に入ってきたのが見えると、

「おはよう」

そう声をかけずにはいられなかった。

「おはよう」

と返してから、相手が俺だとわかりビックリした結月の顔は、面白かった。

そんな結月に対して、クラスの女の子たちが「ダサ子のくせに……」そう言ったのを聞いて、俺は気分が悪くなった。

結月のこと何も知らないくせに、格好だけで差別して。

結月がどれだけ優しのか知らないくせに…

結月の笑った顔が、どれだけ可愛いのか知らないくせに…

そう思ったあの時にはもう、俺は結月にはまっていた。

自分の気持ちを自覚したのは、屋上で結月と初恋の人の話をした時だ。

結月が初恋の人のことを、懐かしみながら愛おしそうに話す姿を見て、イライラした。

そして俺も自分自身の初恋の話を結月にして、今も自分はユズさんが好きなんだと思って話始めたはずなのに、俺の話に真剣に耳を傾けている結月が愛おしくて、話終わったあと思わず抱きしめてしまった。

そんないきなりの俺の行動に、結月は何も言わずただただ黙っていた。

俺は自分の胸の鼓動が、結月に聞こえるんじゃないかと不安になりながらも、想いのままに結月を抱きしめ続けた。

それから月日が流れて、ユズさん主演で俺も出演しているドラマの第1話が放送された翌日、学校では俺の周りにそれまでよりもたくさんの女の子が近づいてきて、結月と話せる時間が少なくて意気消沈しながらも、学校が終わってからドラマの撮影に行くと、俺のファンだという新人女優の中村さんに握手を求められた。

そこまでは良かった。

けれど俺と同じ高校の後輩だった中村さんは、次の日から毎日、俺に会いに教室まで来るようになった。

彼女はただ演技のアドバイスをしてほしいと、一生懸命だったから、俺はOKしてしまった。

けれどそのために、結月と二人で過ごせる時間がなくなってしまった。

結月と話せる時間はどんどん減ってしまった。

結月ともっと近づくためにはまず、今までの気持ちとケリをつけよう。

そう思った俺は、ある日のこと撮影現場でユズさんに今までの想いを伝えた。

ずっと昔に初めて会ったときから好きで、今も憧れてると。

ユズさんも昔のことを覚えていてくれて、俺は本当に嬉しかった。

そしてこれでやっと、前に進めるって思った。

今日こそは!

そう思って次の日、学校へ行った。

結月が来るのが待ち遠しかった。

けれど現れた結月は、顔が赤くて辛そうで結月の額に手をやると案の定、熱かった。

高熱の結月を保健室に連れて行くと、そこには誰もいなくて、俺は熱に効く薬を探して結月に飲ませ、薬の副作用で寝てしまった結月の横で、ただただ結月が早く元気になることを願った。

しばらくすると、保健室の先生が来た。

「その子は私が診ているから、あなたは授業に行きなさい」

そう言われたけれど、俺は断固として動こうとしなかった。

とうとう先生の方が折れて、

「その子が起きるまでいていいわよ。私はどこかへ行ってくるわ」

そう言って保健室から去っていった。

その後、結月が起きるまでの間、結月の可愛らしい寝顔を眺めながら、小さな右手を握り続けた。