ボイストレーニングが終わり丁度一息ついた頃に勇人と拓也、二人のスマホが同時に鳴った。
同じタイミングでスマホを取り出し、メッセージを確認し、また同じタイミングで顔をしかめた。

「朝陽君から?」

「ああ」

「見た?」

「……ああ」

“大堂恭矢に気を付けてあげて”

その一文だけで二人は朝陽が何を伝えたいのかを瞬時に理解した。

「そーいやあのCM、台本を無視した自分勝手なアドリブだったらしいよ」

「そうみたいだな」

「台本書いた人、最初は怒ってたらしいけど……結局は口説き落として納得させたって話だし」

「……」

「現場で会う女性みんなに色目使ってるらしいし。
なにより、許可なくベタベタ触ってくるって噂だよ」

他にまだスタッフがいる室内で誰の話をしているのかまったく気付かせないよう注意を払い、お互い目線はスマホに落としたまま会話し指を滑らせる。

「これってただの噂だって思う?」

「……火のない所に煙は立たないだろ」

一見、冷静に見える勇人だが、その声に静かな怒りが込められていることに気付くのは、この場では長年の付き合いである拓也だけだった。

「同感。
いるんだよね、この世界入って人気が出ると勘違いしちゃう奴」

送信ボタンを押して初めて拓也は勇人に視線を寄越す。
勇人がまだ自分のスマホに視線を落としていることに気付いた拓也は、何の気なしに勇人のスマホ画面を覗きこんだ。

「え……何?勇人、マジ?」

そして、画面に表示された文面に拓也は目を丸くしていた。