「初めまして……って、雑誌でよく見てるから初めてって気がしないな。
知ってる?同時期にモデルデビューした大堂恭矢です。
今日のCM撮り、よろしくね」

「あ、はい。えっと、秋村陽菜です。
今日はよろしくお願いします」

堀原の背中から顔を出してペコリと頭を下げ、挨拶しながら陽菜は思い返す。

大堂恭矢は陽菜とほぼ同時期にモデルデビューしたが、そのルックスと人懐っこさを売りに顔を広め、あっという間にテレビやCMに出るようになった所謂売れっ子だった。

ーー古河さんも人懐っこさのような所があるけれど、大堂さんはなんか……。

下げた頭を戻しチラッと大堂を見ると、それに気付いた大堂が微笑む。
口元は笑っているのに目が笑っていなくて、陽菜はゾクッと背筋を凍らせた。

言い知れぬ感情に表情が強張りそうになると、急に堀原が陽菜の両肩に手を置き体の向きを変えさせた。

「秋村はまだ準備がありますのでこれで。
陽菜、行くぞ」

「あ、はい」

失礼します。と断り、堀原の誘導でそのまま歩きだす。
後ろで、堀原さん、陽菜ちゃんに触ってズルい!!と大堂の喚く声が聞こえたが、気のせいだと思おうと頭を左右に振って準備のために一度スタジオを出た。

そんな陽菜の後ろ姿が見えなくなるまで、大堂が笑みを消してじっと見ていたことも気付かずに……。