時は少しだけ遡り、Kaiserの控え室を訪れるために廊下を歩いていた陽菜と堀原。
陽菜はお洒落な衣装に身を包みながらも前回同様、堀原へ恨みのこもった視線を向けていた。

「堀原さんの嘘つき……堀原さんの鬼……堀原さんの……」

「嘘はついていない。
撮影だと言っただろう?」

「テレビの撮影だとは言ってなかったじゃないですか!しかも生放送なんてっ!!
絶対取り返しつかなくなりますよっ!放送事故ですーっ!!」

と、無くてもいい方の自信をありったけもって主張した陽菜に、この人見知り故のネガティブさをどうしたものかと常日頃悩んでいる堀原は軽く自分の眉間を揉んだ。

「今みたいに話せば良いだろう」

「堀原さんはずっと一緒にいるから慣れましたけど、知らない大勢のスタッフさんの前とか、カメラの向こうに大勢の人達がいると思うとこんなに話せませんよー」

「スタッフはカボチャだと思え。
カメラの向こうの視聴者なんてお前には見えない。いないと思え。」

「そんな無茶苦茶なー」

堀原なりに陽菜を想って言っているのだろうが、陽菜には目の前にいるスタッフをカボチャだとか、レンズの向こうにいるはずの人をいないとは思えない。

むぅ。と口を少し尖らし眉を潜めた陽菜と表情が変わらない堀原は一つのドアの前に立った。

「それに、今日のお前はKaiserのオマケだ。
隣に立ってるだけで良い」

「……はい」

目の前のドアには『Kaiser様』と書かれた張り紙がしてあった。

KaiserのPVに出演という形で雑誌から初めて飛び出した陽菜も話題性があるとして、新曲のPRに呼ばれたのだ。

堀原が挨拶の為に控え室をノックする。
中から聞こえてきた返事に堀原がドアを開けると、陽菜は顔だけをひょこっと出したのだった。