「勇人さん!」

陽菜の家から然程離れていない場所で朝陽に呼び止められ、勇人は足を止めて振り返った。

「朝陽君?」

「ちょっと話したいことがあったんで。
途中まで一緒に歩いていいですか?」

わざわざ追いかけて来てまでの話ということは陽菜には聞かれたくない事だろうと判断し、勇人は頷くとゆっくり歩きだし朝陽もそれに習った。

「うちの陽菜姉なんですけどね、初対面の人にはガッチガチに固まって話せなくなって……一体何の小動物だって感じで近寄らせてくれないんですけど、慣れたらあの通りの隙だらけでぼんやりした頼りない奴になるんです」

小さいけれどちゃんと勇人にだけ聞こえる声で話しだした朝陽は何故か実の姉であるはずの陽菜をディスることから始まり、勇人は数回目を瞬かせた。

「見た目はまあ、モデルやってますからあの通りなんですけど。
周りのしょうもない男とかが顔や体目当てで陽菜姉に寄って集ろうとした事が何度もあって……しかも陽菜姉、ぽやぽやしてるから何も気付いてないって言うね。
さすがに危機感感じてその時から俺、外では陽菜姉の彼氏みたいに振る舞って、周りにガン飛ばしてて。
大概の奴はそれで逃げていくんですよ」

陽菜の弟だけあって顔が整っていて男前の部類に入るだろう朝陽がさっき出会った時のように敵意を丸出しにして眼光鋭く睨み付けてきたら……。

やはり普通の男はすぐに逃げていくのだろうと勇人が納得していると朝陽はニコッと笑った。