マンションに帰るとリビングに明かりがついていた。
今日は勇人が先に仕事が終わったらしく、美味しそうな匂いがしている。

二人で作ったルールその一、早く帰れた方が食事を作る。
それを勇人はちゃんと守ってくれているようだった。

「ただいま帰りました」

「お帰り」

ひょこっとキッチンに顔を出すと、パスタにソースをかけていた勇人が柔らかく微笑んだ。

陽菜といる勇人はよく微笑み、表情がないなんてことはない。
言葉数は少ないかもしれないけど、ちゃんと会話のキャッチボールも出来ていると陽菜は自負している。

「今日堀原さんに勇人さんの噂を聞きました」

「噂?」

「はい。勇人さんとの会話に困ったら私の名前を出したらいいそうです。
雰囲気が柔らかくなるそうですよ?知ってましたか?」

陽菜は小首を傾げると、勇人は思案するように視線をさ迷わせた。

「自覚はないが陽菜のことを話すのは楽しいし、何より……」

「何より?」

「自慢になる」

「へ?」

思ってもない言葉に陽菜は目を丸くする。
出来上がったパスタをテーブルに並べると、勇人は陽菜に振り返る。

「陽菜のことを聞かれる度に、陽菜が俺のものだって自慢できる」

その言葉に陽菜は真っ赤になった。
勇人のストレートな表現は今も尚、変わっていなかった。