最近、テレビのMCの人達の間で話題になっていることがある。
“越名勇人とのトークに困ったら、越名陽菜の話題を出せ”ということらしい。

「……なんですか、それ」

堀原から聞かされたその話に陽菜は首を傾げる。
撮影の合間の休憩時間に堀原はこの後のスケジュールを確認しながら言った。

「Kaiserで主に話すのは古河拓也で、越名勇人に話を振ってもあまり返ってこないだろう」

「あ、そう、ですね……」

テレビに出てる勇人は口数が少なく、質問されても「そうです」や「はい」や「いいえ」で終わってしまうことが多く、会話のキャッチボールというものがない。
そこを上手く拾い上げ話を広げてくれるのが拓也なのだが、最近勇人がたくさん話してくれる話題があるとみんなが噂しているのが冒頭の言葉だった。

「陽菜の名前を出すだけで雰囲気が柔らかくなって、運が良ければ表情のない越名勇人の笑顔も見れるそうだ」

「それは……お役に立てて良かったです……?」

苦笑しながら陽菜は答える。
スタッフやMCの人達から聞く表情のない勇人の姿が陽菜にはあまり想像がつかなかった。