「お帰りなさい、越名さん」

「ただいま……この荷物は?」

勇人がリビングに入ると陽菜がこのマンションに来た時に拓也が運んできた鞄が置いてあった。
勇人が訝しげに陽菜に視線を寄越したので陽菜は眉を八の字にした。

「大分騒動が落ち着いたので、そろそろお暇しようかと思いまして……。
越名さん、たくさんお世話になりました」

深々とお辞儀をした陽菜に勇人は何も言わない。
ゆっくりと顔を上げると勇人は真剣な眼差しで陽菜を見つめていた。

「君は……」

「え?」

「君は、俺といるのは嫌?」

その言葉に陽菜は目を見開くと、すごい勢いで首を振った。

「そんなことないです!
ここにいる間すごく楽しくて、嬉しくて、幸せで……」

「なら、出ていかなくていい。
ここにずっといて」

「でも……またスキャンダルになったら……」

陽菜が今一番心配しているのはその事だった。

大堂とのスキャンダルは数多くの人が協力してくれて上手くいったものの、短い期間で二回目のスキャンダルとなれば周りの目も変わり、陽菜ももう仕事をしていけなくなるだろう。
なにより、勇人にまたスクープという形で迷惑をかけたくなかった。

その為にも中途半端なこの関係のまま一緒に暮らしていてはいけないと、そう判断したのだが……。

「大丈夫だから、もう少しだけここにいて」

「越名さん……?」

「絶対世間に納得してもらう。
それまでここで待ってて」

強く抱きしめながら訴えてくる勇人に、陽菜はおずおずと手を回し小さく頷いた。

ーーもう少し……もう少しだけなら、大丈夫だよね……?

勇人と一緒にいられるこの時間をもっと長く感じていたくて、陽菜はそっと目を閉じた。