クールなアイドルの熱烈アプローチ

イベントホールに置かれた数十体の着ぐるみ。
最小限のライトしかないその場所は、先程までのリハーサルの時と違って少し怖い雰囲気だった。

これから何が起こるのかが分かっていても足がすくみそうになるが、陽菜は緊張しながらもゆっくりと着ぐるみに近づいた。

「久しぶり、陽菜ちゃん。
世間に言わせれば、恋人同士の感動の再開ってとこかな?」

着ぐるみの影からゆっくり姿を現す大堂を確認した英理は予定通り素早くホールを飛び出す。
その様子を陽菜が無言で見つめてから、ゆっくりと大堂に視線を移した。

「……また、あの子を使って呼び出したんですか?」

「あの子は俺に逆らえなくてね。
いい駒として動いてくれてるよ」

にこにこと、自分は何も悪いことをしていない、何が悪いのかすら分からない。と言った様子の大堂に陽菜は眉を潜めた。

「どう?好き勝手な憶測を並び立てられてスキャンダルに追い込まれ、休養を余儀なくされてみて。
俺の言うことを聞く気になった?」

「……もし、大堂さんの言うことを聞くとしたら何をするんですか?」

「そうだなぁ……今までの子達みたいに、俺が飽きるまで遊んであげようかな?ああ、飽きた後は好きにしたらいいよ。
大体みんな、引退か休養してるみたいだけどね」

そう言って肩を揺らして笑う大堂に陽菜は眩暈がした。