「初めまして、Kaiserの古河拓也です」

アイドル界の頂点であるKaiserの二人が陽菜に向かって真っ直ぐ近づいてきて、ムードメーカーの拓也が笑顔で陽菜に右手を差し出してきた。
けれど、あがり症の陽菜はタオルを被ったまま唖然とした表情で固まったまますぐに反応できなかった。

「……陽菜」

「!!は、初めまして!!モデルの秋村陽菜ですっ!!」

隣にいた堀原に強めに肘で突かれ、ようやく我に返った陽菜は慌てて頭を下げて90度のお辞儀をした。

「ほっ、本日はお二人のPVに出演させてもらうことになりまして……誠にありがとうございますっ!」

ブッ!!

頭を下げたまま必死に言葉を紡いでいると、頭上から吹き出す音が聞こえた。
そろそろと目線だけを上げてみると、顔を反らして右手を口元に当てて肩を震わせている拓也がいた。

ちなみに堀原も顔を反らしてはいるが決して笑っているわけではなく、きっとさっきよりも呆れ返った表情をしているはずなのはまだ半年しか付き合いのない陽菜でも分かってしまった。

「いやいや、こっちが陽菜ちゃんに……あ、馴れ馴れしいかな?秋村さんにお願いした仕事だからね。
引き受けてもらえてこっちが『誠にありがとうございます』だよ」

可笑しくて堪らないといった感じに拓也が声を震わせている。
ブワッと陽菜の顔が赤くなったのは拓也の笑顔にか、己の言動にか、はたまた両方なのかは陽菜自身にも分からなかった。

「ほら、勇人!お前も挨拶しろよ!」

拓也の少し後ろに静かに立っていた勇人は拓也に促されると一歩踏み出し、陽菜の前までやって来て立ち止まった。

その一段と整った顔立ちを前にした陽菜は、思わず硬直するとゴクッと唾を飲んだ。