そんな会話があったことなど露知らず。
今日はいつもとは違う雑誌の撮影だと言われ、堀原に連れてこられるままスタジオ入りした陽菜なのだけれど、そこで知った事実に陽菜は恨みのこもった視線を堀原に向けていた。

「堀原さんの嘘つき…堀原さんの鬼…堀原さんの…」

「小声で呟いてるつもりでも全部聞こえてるからな」

スタジオの隅で頭からすっぽりとタオルを被っていた陽菜はぶつぶつと堀原への悪態を途切れさせることなく呟いていたが、そんな陽菜を堀原は呆れた顔をして見ていた。

「この前のテレビのゴールデン番組のオファーを断ってやった代わりだ。
それに、この仕事は社長命令だからどう足掻いても逃げられないぞ」

「……わかってますよー」

この世界に足を踏み込んでしまった以上、いつまでも自分の我儘で仕事を選んでいられないことも、雇ってくれた事務所のプラスになることならどんな仕事でも必死にこなさなければいけないことも分かってる。

だけど人見知りであがり症、そして目立つことが苦手な陽菜は話さなくてもいいモデルの仕事はなんとかこなせるが、それ以外の仕事となるとどうしても躊躇してしまうのだった。

そして今日、社長命令が出てまでやらなければいけなくなった陽菜の仕事内容と相手とは……。

「Kaiserさん、スタジオ入りします!」

スタッフの声に皆が一斉に入り口に目を向け、わぁっ!!と歓声が上がった。

そこには落ち着いた色合いで、二人並んだらシンメトリーになっている王子様のような衣装に身を包んだKaiserの二人がいた。