「やっとお昼…」

呟いて伸びをする。
今日は久々にお昼は屋上で食べることにした。

天気はいいけど少し寒い。
だけど教室で食べるのとは比べものにならないくらい幸せだ。
遠くから電車の音や車の走る音、校庭で遊ぶ生徒の声が聞こえる。

穏やかな昼下がり、まさにこういうことを言うんだろう。
心地よさに目を細めた。



「…やっぱりここにいた」

後ろからガチャン、とドアを開ける音がした。市ノ瀬君かと身構えたけどそこにいたのは千藤君で。

「びっくりした…」

「市ノ瀬かと思った?」

心外そうな顔をした千藤君は私の隣に腰を下ろす。
おもむろにカーディガンを脱ぐと私の肩にぽん、とかけた。

「寒いだろ」

「平気だよ」

「昨日死にそうな顔してた人の言うことは聞きませーん」

そう言って笑った。
ありがとう、と小さな声で言ってカーディガンに袖を通す。

「あったかい…ちょっと、てか大分大きいけど」

「………」

「あ、ありがとうね千藤君」

「あー、うん、いいよ」

千藤君は落ち着きなく目を泳がせたあと乱暴に頭を掻いた。
カーディガンは大きすぎて、手が袖から出てこない。

「ん、腕出してごらん」

そう言った千藤君に腕を差し出すと、器用に袖を折ってくれた。

「ほっそい手首〜〜枝見たい〜」

「うるさ!」

睨みつけた私を見て、千藤君は何が可笑しいのかケラケラと笑った。