くるりと踵を返した市ノ瀬君に知らず知らずの内に止めていた息を吐いた。 じっとりと汗ばんだ手を握りしめて息を吸うと、甘い香りが鼻をくすぐる。 市ノ瀬君の、匂い。 私の嫌いな甘い匂いだ。 思わず顔をしかめてタオルに顔を埋めた。 嫌い、嫌い、嫌い。 最低な市ノ瀬君が大嫌いだ。 「田宮さん、早くしなよ。遅れるよ?」 私を呼ぶ声を無視する度胸なんて無くて、 せめてもの抵抗で返事はせずに歩き出した。