首にかかったままのタオルから、制汗剤みたいなスッとする匂いがする。
人懐こい笑顔と運動部らしい黒い短髪が目に浮かんだ。

洗って返さないと。

そんなことを考えながら歩いていると、何かに思い切りぶつかった。

ぶつけた鼻を抑えながら前を見ると、
先に行っているとばかり思っていた市ノ瀬君が不機嫌そうに私を見下ろしている。


「なあそれ、本当に田宮さんのタオルなの?」


ぞっとするくらいに冷たい声だった。
固まってしまって声が出ない。

そんな私に身体をかがめて顔を近づけると、


「答えて」

低い声で唸るように言った。

震える唇を必死に動かして、

「そう、だよ
私のだよ」

なんとかその一言だけ吐き出した。

綺麗な二重の目を不機嫌そうに細めたまま、市ノ瀬君は「あっそ」とだけ言って私から離れた。