「お母さーん、モモの散歩行ってくるねー」


 分厚いコートに毛糸のマフラーを巻き手袋で完璧に防寒をして、足元ではしゃぐモモの頭を撫でて玄関に向かう。

 モモの首輪にリードを繋いでから玄関を開けると、肌を刺すような冷気と一緒に粉雪が降り込んできた。


「雪だ……モモ、寒いけどどうする?」


 モモは黄金の毛並みの尻尾を大きく振り、雪なんか全然気にしていないようだった。

 あたしはそれを平気だという意味にとって、愛用している傘を手に取る。


「お母さーん、お兄ちゃんって傘持ってったー?」

「持っていってないと思うわよ。沙結梨、毎晩モモの散歩に託(カコツ)けてお兄ちゃんを迎えに行かなくてもいいじゃない?」


 キッチンから出てきたお母さんは、困ったような不安そうな表情をしている。


「大丈夫だって。モモもいるしねー?」


 あたしの問い掛けにモモは当然だといわんばかりに一吠えした。

 夜は危ないと心配する両親の対策のためにモモを連れていくのを、モモもわかっているみたいだ。

 あたしは自分のに加えて、お兄ちゃんが普段使用している深緑の傘も手にとる。


「じゃあ、いってきまーす」

「いってらっしゃい、気を付けてね。モモ、不審者がいたら吠えるのよ」


 モモの尻尾と一緒に大きく手を振ってから、あたしはピンクの傘をさし、手にはモモのリードとお兄ちゃんの傘を持って家を出た。