「さゆ、ばいばい」

「また明日ね」

「変な奴に気を付けるんだよっ」

「もー、大丈夫だよ。ばいばーい」


 ぷしゅー、と気が抜けるような音がして扉が閉まる。

 電車の中の友人たちに、笑顔で手を振り返した。

 薄闇の中をけだるそうに走る電車の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、あたしは階段に向かった。

 髪を出さずに首へぐるぐる巻いたタータンチェックのマフラーに、指で少しあけた隙間に顔を埋めながら歩く。

 マフラーの隙間から漏れる息は、白い線になる。


 今年も冬がやってきた。


 冬は好きじゃない。

 日が暮れるのが早くなるし、毎年恒例の受験戦争が始まる。

 周りはなんで彼氏を作らないのかと聞いてくるし、彼女が欲しい男は争うように約束を取り付けようとする。

 冬は寒いから人肌が恋しくなるのはわかるけど、あたしは彼氏なんて欲しくない。


 そんなのいらない。

 唯一欲しいものは、近くて遠い。


 早く家に帰ってしまおう。

 あたしは階段を下りる足を速めた。