首を傾げたくなるのを堪えつつ若の所に戻ると、若は口の端を意味深に吊り上げていた。
「若、その笑顔気色悪いですよ」
「んー? いや、面白かったからさー」
にやにや、という擬態語がぴったり当て嵌まる若の笑顔。
三日月みたいな口の形は、不可解な国の喰えない猫を思い出させる。
「榊、綺麗なのにブラコンだもんなー。全校生徒から好かれてる兄ちゃんが相手じゃ、誰も勝てないよなー」
若の言葉に耳を傾けつつも目に映るのは、親密な空気の中で言葉を交わす綺麗な兄妹。
それは芸術的な美しさで、そのまま止まれば一枚の絵画のような二人だ。
先輩は飛び抜けて綺麗だが、妹も負けず劣らずの美しさを持っている。
見た者の心を惑わすような栗の外殻と同じ色をした瞳は、底が見えないのに中の虹彩がくっきりと透けて見える。
夏でも白い肌の上には、グロスで輝きを足され食べてくれといわんばかりの色よい唇。
それらのパーツが小さめの顔の上にバランスよく並んでいる。
四肢は細く、髪はよく天使の輪といわれる光の輪をつくりなめらかに背中にかかる。
そのどれもが先輩と同様に、吟味されたものばかりであると思う。
そんな本人にあまり自覚はないようだが、男子たちからはその美しさと彼女が好いている絶対的な兄の存在故に、高嶺の花──まるで崖の上にひっそりと咲く朝露をたたえた一輪の白百合のようだ──と思われている。
美しく、なびくことなく、それでいて芳しい香りを振りまき気高く咲き誇る。
誰にも手折られることのない、白百合のようだ、と。
今時の高校生たちの口から『高嶺の花』なんて言葉が出るのは不思議な光景だが、それでも彼女にはその言葉がしっくりくる。
誰に媚びることもないその姿勢、美しさを鼻にかけず高飛車なんて無縁の態度。
本当に、群を抜く見た目を除いたら普通の女子高生だ。


