「そっか……」
口元に手をあて思案顔になる先輩は、その困った表情さえも綺麗だ。
下側にしかフレームのない細い銀色の眼鏡も、校則通りに着ているわけでもなく適度に崩して着こなされた制服も。
『榊先輩』という存在を構成するすべてのパーツが、吟味された最高のものばかりであるように感じる。
初めて先輩を見たとき、男性には不適当なのかもしれないが、『綺麗』とはこういう人のことを言うのだな、と思った。
「ちょっと悪いけど、沙結梨呼んでもらえるかな?」
「わかりました」
ゼリーの蓋を閉め、席を立つ。
そのまま窓際で友人たちと昼食を食べる榊沙結梨に真っすぐ向かって歩いていく。
友人たちは何となく向かってくる僕に気付いてくれたのだが、当の本人が気付かない。
仕方なく後ろから呼び掛けた。
「榊さん」
すぐに反応して、振り返ってくれた。
「木崎くん。どしたの?」
「榊先輩がいらしてますよ」
「お兄ちゃんっ!?」
光速で反応した彼女は勢い良く席を立つと、その速さに驚く僕には目もくれず一直線に先輩のいる扉まで走っていった。
そのまま走った勢いごと体当たりするように先輩に強く抱き付く。
先輩も心得たもので、ふらつくことなく彼女を受け止めていた。
彼女は力一杯全身で喜んでいて、それが遠目にもわかるくらいだった。
「うーん、今日も激しくブラコンだねぇ」
「でも榊先輩ならブラコンにもなっちゃうでしょ。相変わらず先輩かっこいいなぁ……」
魂消(タマゲ)るとまではいかないものの、そういう言葉をしみじみ噛み締めていると、彼女の友人たちが好き勝手言い出した。
「木崎くん、ごめんね? あの子超ブラコンだから」
「いえ……」
そんな中、彼女の友人が何故か謝ってきたが、正直どうでもよかった。
先輩と喋る彼女はいつにも増して生き生きしていて、先輩が好きだという気持ちが惜しみなく溢れだしている。
昨日の資料室からの帰り道とは大違いの態度だ。


