「ウィルの午後の予定は何?」
「稽古と防衛費の予算会議です」
「相変わらず忙しいのね。私とは大違いだわ」

大抵自由なリリィ。
父である国王やお兄様は政治に携わっているけれどリリィは関わることができない。

王族として、そして女として生まれた私に求められているのは姫という椅子に座っている事だけ。

誰も私自身を必要としていない。

でも私はヴァンパイアとしての力はウィルよりも強いからいざとなったら役に立つはずだ。

それにこうやって自分を卑下してるとウィルに気を使わせてしまうわ。

「そういえば、来週のパーティー参加するの?」
「警備としてですが」
「あら、警備だなんてウィルと話したい令嬢たちが泣いてしまうわね。…そういえばアリアも出席するわね」

アリアのことだ、ウィルが警備してることなんて御構い無しに話しかけに行きそうだ。

「なぜ、アリア嬢が出てくるんです?」
「だって、縁談を申し込まれているのでしょう?」

私がそう言うとウィルはあからさまに顔をしかめた。

「姫は、それを聞いて特に何も?」
「そうね、アリアはちょっと私とは気が合わないけどウィルとは合うならいいと思うわ。公爵家の娘ですし」
「…そうですね。姫はやはり姫です」
「あら、それは褒めてるの?」
「褒めてません。むしろ、呆れてます」

ため息をつきながら言うウィル。
綺麗な深緑の瞳は他に何か言いたそうだ。

けれど、何も言わずそのまま立ち上がる。


「仕事があるのでお先に失礼致します」
「え、もう行っちゃうの?」
「申し訳ありません」

申し訳ないと思っていない顔でそう言ったウィルは礼をしてから行ってしまう。

「何よ…」

呆れるようなことなんて言ってないわ。
それに行っちゃうし…

「ウィルのバカ」

思わず呟いた言葉は誰にも聞かれずに風が攫っていった。