「本当に来たわ…」

リリィがそう言って窓に近づくと、ウィルもリリィの隣に立って馬車を見つめる。

「なぜ急に来たのでしょうか?ロイ様の話の通り、人間が上に立ちたいと考えているならばそれに関わる書簡でも持ってきたのですかね?」
「そうね。きっと戦争したくなければ何かを差し出せ、みたいな感じじゃないかしら?」

…ヴァンパイアの王女を貰い受けたいとかね。

「だとしてもいきなり来るとは何かに人間側は焦っているのか」
「それか事前に言ったら断られると思ったのかもしれないわ」
「本当に何を企んでいるのでしょう」
「そうね、この世界の上に立つ。その欲望が生まれてしまったらもう行く道には悲しみしか生まれないわ。正常な思考ではないから手段も選ばないし」

ヴァンパイアも、私のずっと前の祖先も同じ欲望を持ち人狼や人を奴隷にした過去があり、そしてその当時何万という死者が生まれたという文献も残っている。

「姫だけは絶対に何があっても守ります」

ウィルの真摯な態度に心が暖くなると同時に深い闇が心を覆うような感覚に陥る。

「ありがとう」

なんとかグッと力を入れて口角を上げる。


私が昔、罪のない人間を殺していたとしても。

それを知っても、
ウィルは私に同じ気持ちを持てる?