「もう!ウィルは私のお兄様じゃないんだから!あ、それに昨日あなたが侍女と密会してるのを見たわ。私ばっかに構ってると後々めんどくさくなるわよ」

「そうですね…私は姫の兄ではありません。あと、密会してたわけではありませんから。彼女の恋人である私の部下が怪我をして騎士寮から出られないので代わりに手紙を受け取っただけです」
「あら?そうなの?てっきり恋人が出来たのかと…」
「違います。姫の勘違いです」
「でもウィルは噂とか疎そうだから教えとくけれど私の結婚相手はウィルだってみんなが噂してるらしいわ。だからこうやって私の部屋に入るのも遠慮した方が良いと思うの」
「…噂は噂ですよ。気にしないでください」
「そもそも私たち距離が近すぎるのよ。もう私たち子供じゃないわ」
「嫌なのですか?」

そう言ったウィルの瞳にはどこか怯えが見え隠れしている。

そんな傷ついたみたいな表情をされたら嘘つけないじゃない。

「…嫌ってわけではない…けど」
「じゃあいいじゃないですか。この話は終わりにしましょう」
「えぇ、そうね…」

いつもこうやってウィルに上手く丸め込まれている気がする。

やっぱりウィルには敵わないわ。

そう思いながらふと窓の方に視線を向けると、丁度さっきの馬車が城に入っていくのが見えた。