「姫っ!」

私が部屋を出たあと、ウィルが当たり前のように私を追いかけてくる。

「ウィル…人間は嫌い?」
「えっ?」

私の突然の問いかけにウィルは少し戸惑った後、

「特別な感情はありません。ただヴァンパイアの民を傷つけたり、姫を傷つけるならばその人間を私は殺すでしょう」
「そう…」
「姫、どうしたのですか?」
「…何でもないの。ただ自分が人間に言ったとおりのヴァンパイアであると思っただけよ」

無慈悲で人間なんて簡単に殺せる。

「そんなことありません!なぜ、いつもそうやって自分を卑下するのですか?!」
「ウィル…」

私には声を荒げることなんて今までなかった。ウィルが怒っていることがその表情と視線からも伝わってくる。

「今だけはお願い…」

リリィはそう言ってウィルの胸元に飛び込む。

「姫…」

ウィルはただ黙って抱きしめ返してくれる。

「今日はどこにも行かないで…」

クロード家に呼ばれていることをわかってるのにこんなことを言う私は最低ね。

「勿論です」

それにウィルは私のお願いを断れない。

ごめんなさい、ウィル。

月明かりが二人を静かに照らしていた。