様々な種族がいるこの世界。

この世界には王が一人いるわけではなく種族ごとに王がおり、争いが起きないよう上手く調整して世界の平和を保っているのだ。

そしてここはヴァンパイアの住む国。

ヴァンパイアとして生を受け、第1王女でもあるリリィは今日もこっそり町に出かけていた。

「今日もみんな笑顔ね、よかったわ」

リリィは度々町に行き、人々の暮らしを観察する。

何か問題があれば、城に戻りさりげなく王や大臣に伝え対処してもらうために。

そろそろ城に戻って刺繍の続きでもしようかしら、昨日の読みかけの本を読むのもいいわね。

そう思い城に引き返そうとした時、グイッと誰かに肩を掴まれる。

「誰?」

肩を掴んでいる手を払いのけて、振り返る。
リリィの瞳は紅く輝いていた。

「姫。一人で行くのはやめて下さいとあんなに言ったのに、約束を破りましたね」
「ウィル…もう驚かせないで」

怪しい人じゃなくてよかった。
瞳の色がいつもの紫に戻る。