「あっ、ニコちゃんたちだ」
 仁美ちゃんの声がして、
「ああ。これから体育みたい」
 俺は振り返った。
 けど、すぐに外を見る。
 1分でも、1秒でも好きな人を眺めていたい。
 そんなふうに誰かを思うことは初めてで、そんな自分をアホかと思ってしまう。
 けど、愛おしさでいっぱいになるこの感じは好きだ。
 人を幸せにしてくれる。
 恋は不思議だ。
 好きな人が楽しそうに笑っているだけで、簡単に自分も幸せになれてしまうのだから。
「スポーツテストにある持久走の練習かしら? けど大志、よく見つけたわね。豆粒とまではいかないけど、すぐに判別できる? 私、大志がニタニタしながら外を眺めてなかったら、ニコちゃんたちに気づかなかったわよ。長い付き合いだけど、大志って気持ち悪い性格だったのね。初めて知ったわ。ストーカー。変質者。執着魔。怖い怖い。こんなヤツに好かれるなんて、ニコちゃんが可哀想すぎる」
 仁美ちゃんは俺の右横に立つと、冷たい眼差しを向けてきた。
 すると、今度は、
「よく見つけたな」
 リューイチに声がした。
「恋のパワーか執念か。気持ち悪いを通り越して怖いな」
 俺の左にリューイチが立つ。
 呆れたように笑うリューイチの横腹に、俺は思い切り肘をグイッと入れてやった。
「なんだよ。褒めてやったのに」
 リューイチが俺の頭を掴むと、髪をグシャグシャッとしやがった。
「お前は俺に一生感謝する立場だろうが。誰が日向さんを生徒会に入れるキッカケを作ったと思ってんだ」
 リューイチがニッと笑った。
 はいはい、わかってます。
 わかってますとも。
「リューイチのおかげだよ。あそこであの機転、さすが生徒会長様だよ。頭の回転が俺以上だよ。助かりました。感謝してます。ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします」
 俺は首を軽く振ってボサボサになった髪を直すと、腕組みをしてふんぞり返るリューイチに態とらしく丁寧に頭をさげた。
「あれは、リューイチのファインプレイであり、汚点よね」
 一方、仁美ちゃんは難しい顔で腕組みした。