「大志さん」と、好きな人を呼ぶようになって1か月半。
 実は、未だに慣れない。
 名前を呼ぶ。
 それだけなのに、幸せで胸がいっぱいになりすぎて、体中が熱くなってしまう。
 放課後の生徒会室。
 衣替えが終わり、早くも夏休みが待ち遠しくなる中、私たち生徒会の女の子メンバーは、男の子メンバーが戻ってくるのをお喋りしながら待っていた。
 アイスクリームの買いだしは2人もいれば十分だろうとみんなでジャンケンしたら、大志さんとケイ先輩が負けてしまった。
 そしたら、会長たちが「コイツらに任せたら心配だ」と言いだした。
 結局、数日分のお菓子も含めて買ってくると、男の子全員で出かけてしまった。
「ニコちゃんは夏休みどうするの? もう予定ある?」
 仁美先輩がスケジュール帳を開いた。
 夏休みの生徒会活動日を決めるんですね。
 毎年、夏休みには絶対に外せない予定が1つだけある。
 それは、おばあちゃんのお家に遊びに行くこと。
「お盆におばあちゃんのお家にいて。お守りを返して……」
 他には特にないかな。
 大志さんとたくさんデートしようって約束したけど、それは生徒会のスケジュールが決まらないとどうすることもできないし……。
「へーっ。なんのお守り?」
 下敷きで自分を煽るリカちゃんに、興味なさそうに訊かれた。
「恋愛のお守り」
 訊かれたまま答えた私は、ボロボロになったお守りを思いだして溜め息をついた。
 おばあちゃんから貰ったお守りをスクールバックの内ポケットに入れたままにしていたら、いつの間にか複雑に結ばれていたヒモが解けて、ヨレヨレになっていた。
 それに気づいたのが昨日の夜。
 神社に返そうと決意するしかない状態だった。
 今は、ありがとうの気持ちを込めてから、お気に入りのハンカチをクッション代わりにして、机に飾っている。
 もっと早く鞄から出してたら、あんな状態にならなかったのに……。
 それとも、受験に加えて私の恋まで叶えてくれたから、力を出し尽くしちゃったのかな。
「可愛かったのに」
 お守りとの別れを惜しんでいた私は、3人の視線に気づいてハッとした。