「ニコちゃん、熱かったら遠慮せずに言ってね」
 菅野さんの柔らかな声に、私は上擦りながら「はっはい!」と返事した。
「ここでこうして2人を見てると、受験日のことを思いだすなあ」
 南波先生が大きなガラス瓶に入っているジャムのようなものを紙コップに入れると、電気ケトルのお湯を注ぎ、スプーンで混ぜた。
「はいこれ。冷えてるときは中からあたたまるのが一番だ」
 南波先生が私に紙コップを差しだした。
 受け取ろうと、私は両手を伸ばした。
 すると、南波先生がククッと笑った。
「菅野、ニヤニヤしすぎだぞ」
「今まで意識したことなかったんですけど、萌え袖って破壊力ありますね」
「指先だけ出てるのがたまらないって?」
「たまんないです」
 南波先生と菅野さんが変な会話をするから、全然意識してなかった袖を意識してしまい、私は捲し上げかけた。
 途端、
「勿体ない!」
 南波先生と、
「そのまま!」
 菅野さんの叫び声が重なった。
 思わずビクッとして動きを止めた私に、
「熱いから袖で断熱したほうがいい」
 先生がフフッと笑った。
「わかりました。ありがとうございます」
 両手で受け取った紙コップからは、甘くてフルーティーな香りと湯気が立ちのぼっていた。