「菅野さん、私歩けます! 濡れますから離してください。ブレザーも濡れますから大丈夫です。返します!」
 顔を蒼白にして震えるニコちゃんの唇は、紫に変色していた。
「ニコちゃんは勘違いしてる」
 俺はニコちゃんの顔を覗き込むと、微笑みを深めた。
 ニコちゃんの綺麗な目が大きくなった。
「俺がしたくてしてるの。だから、遠慮してもムダ。保健室にたどりつくまで離さない」
 俺は言い切った。
「これは酷いな。時間は間に合うが、予算会は中止決定だ」
 やっと現れたリューイチに、俺は頭を振った。
 その奥では、ケイとヒロと仁美ちゃんは、教頭たちと一緒に4人の性格ブスと対峙していた。
「リューイチ、さっさと戻って予算会やれよ。完璧な予算案を作ったんだ。それに、ここで明日にしたら、調子に乗って暴言吐くヤツが増えるだけだ。今やるのが一番だって」
「けど、この現状はなあ」
 濡れた床に、ニコちゃんが「ゴメンなさい」と被害者なのに謝る。
 ニコちゃんは全然悪くないのに、なんでこんなに謙虚なんだよ。
 可愛すぎるだろうが。