パタパタと駆けてくる音がした。
「ニコちゃん!」
 仁美ちゃんの悲鳴が響いた。
 その後ろから、谷地ちゃんと見崎ちゃんが飛びだした。
 2人がニコちゃんの前にしゃがみ込んだ。
「ニコ、心配したんだからね」
 谷地ちゃんの目から涙が溢れだした。
「すぐに見つけてあげられなくてゴメンね」
 見崎ちゃんが、崩れるように両足を床につけた。
「心配かけてゴメンね。勝手に飛びだした私が悪いんだもん。だから泣かないで」
 ニコちゃんは笑顔を作ると、ニコちゃんを抱きしめようとする2人の手を握った。
 ニコちゃんはこういう子だ。
 親友が濡れないよう、さりげなく気を遣える子なんだ。
「濡れただけで元気だから安心して。去年、1回も風邪引かなかったし、私、すっごく丈夫なんだよ」
 ニコちゃんが明るく努めれば努めるほど、2人が俯いていく。
 2人の気持ちが落ち着くまでこのままにしてやりたいが、今は4月だ。
 ずぶ濡れのニコちゃんが風邪を引いてしまう。
 それに、蹴られた部分や頬の腫れも放っておけない。
「悪いな、谷地ちゃん見崎ちゃん。その手、離してくれない? ニコちゃんを保健室に連れてくから」
 俺の言葉に、2人は弾かれたように顔をあげると、手を離した。
「ありがとう」
 俺は2人に礼を言うと、ニコちゃんを抱き直して立ちあがった。
 俗に言うお姫様抱っこだ。