私は放心したようにホースの端が消えていくのを見つめた。
「コイツ、結局声をだしたのって、水かけたすぐの『キャッ』だけだったじゃん。ちゃんと水かかってんの?」
「冷たっ! ちょっと、ホースの水滴が垂れたんだけど」
「ゴメン。ホース持ってた腕が疲れちゃってさ。だって、みんな変わってくれないんだもん」
「変わるときにかかったらイヤじゃん」
「私が持てばよかったね。アンタよりタッパあるし」
「ホントだよ」
「ねえ、ブス。聞こえてる? 面倒臭いからさ、出てきたらホース片付けといてよ」
 声が私に向けられた。
 ようやく終わるんだ。
 私は、キュッと自分を抱きしめ続けた手に力を入れた。
 けど、かじかんだ手に大した力は入らない。
 あと少し。
 あと少し我慢すれば、ここから出られる。
「これに懲りたら、もう生徒会に近づかないでよね。特に菅野くん。アタシ、菅野くん狙いなの。一度振られて、アンタのせいで変な目で見られるようになっちゃったけど、アタシ、菅野くん以外には振られたことないんだ~」
「でたっ! ナナのモテ自慢」
「あんたのその顔で、ぶりっ子は反則だよね」
「なんでよ。その後、ちゃんと彼の友人を紹介してんじゃん」
「ありがとナナ~ッ」
 猫撫で声をあげた友人と、友人に対して上からな話し方をするナナさんと、自分たちが優先されることを当たり前みたいに笑う2人。
 ああ、これが菅野さんの言う『性格ブス』なんだ。
 私はハッキリと認識した。
 体は冷たいのに、怒りで胸が熱くなる。
 もともと、自分たちは特別みたいな感じをだすグループは好きになれなかった。
 けど、自分はすべて劣っていたから、相手が何かしら優れているなら優越感に浸るのは仕方がないことだと思っていた。
 けど、今は違う。
 私はすべて劣っているから、ナナさんたちみたいな自信家になれない。
 けど、優劣関係なく、ナナさんたちが嫌いだ。
 許せないし、生徒会に……菅野さんに近づけたくない。