視聴覚室を曲がってすぐの階段を下りようと、手すりに捕まった。
 瞬間。
 予算会で暴言を吐きまくっていた男の子がいた。
 中学のとき、菅野さんと会長に酷いことをしたらしい生徒だ。
 その人は、一緒にいる男の子と軽く言い合っていた。
 今下りたら、巻き込まれてしまうかもしれない。
 急ぐ私は、一瞬だけ迷い、階段を駆けあがった。
 下がダメだなら上だ。
 長い廊下を渡り、同じ校舎にあるもう1つの階段から下りればいい。
 遠回りだけど、もたもたと怖い人たちが消えてくれるのを待つよりも早いはず。
 1つ上の階についた私は、廊下を曲がって数歩のところで立ち止まった。
 前から、4人の女子生徒が、盛りあがりながら歩いてきたからだ。
 生徒会に入ってから、女子生徒の集団恐怖症になっている私は、慌てて廊下の端によった。目を伏せ、速足で歩く。
 先輩女子全員から目をつけられているわけじゃないけど、誰に目をつけられているかわからないから、どうしても全員にビクビクしてしまう。
 先輩たちの横を抜けた。
 そう思ったとき。
「アンタ、生徒会の男子に色目遣って調子づいてる1年でしょ」
 背後から誰のものかわからない女の人の声がした。