心臓が別の生き物みたい。
 痛いほど、ドクンドクンと力強く伸縮する。
 その音が菅野さんまで届いている気がした。
 そしたら、菅野さんの前に立ち続けるのが怖くなった。
 ……菅野さんが好き。
 大好き。
 菅野さんが真剣に怒る姿を見たとき、胸の奥から熱いトキメキが溢れて、一気に私を飲み込んだ。
 頭の回転が速くて、優しくて、茶目っ気があって、運動ができて、甘めの人好きする顔に抜群の容姿。柔らかな物腰の王子様な菅野さんは、憧れるだけで十分な存在だと思ってた。
 けど、今は違う。
 一瞬で変わってしまった。
 憧れの好きが、恋の好きに変わってしまった。
 すぐ目の前にいる。
 手を伸ばせば触れられる。
 目を合わせることも、話すこともできる。
 大好きな人が日常にいて、すぐ傍にいる。
 そう意識した途端、心臓が破裂しそうになった。
 自覚したばかりなのに、好きの気持ちが大きすぎて、抱えきれずにつらくて、涙が溢れそうになった。
 私みたいな平凡以下の人間が、菅野さんに恋をするなんて大それたこと。
 けど、思うのは自由だよね。
 生徒会のお手伝いという名目で一緒にいられる今、恩返しではなく、ただただ大好きな人のために少しでも力になりたい。そう思ってしまう。
 一分でも一秒でもいい。片思いのままでいいから菅野さんのそばにいたいし、菅野さんのために何かしたい。
 だから、疲れている菅野さんを少しでも楽にしたくて、私は菅野さんのために飲み物を用意しようと、逸る気持ちのまま教室を駆けだした。