「書道部なんて金かかんないし、何もやってないだろ。なんで予算増やすんだよ!」
「紙代と墨代だけだろ?」
「そこまで部員減ったら、もうサークルに格下げでいいんじゃね?」
「段とか級なんて、ソイツらの自己満足だろ? 俺らには全然カンケーねーし」
「大会がないとこに金だすなよ」
 集中攻撃を受ける書道部は、大人しそうな男子が俯きと、真面目そうな女子が悔しそうな表情で黙り込んだ。
 リューイチとマモルは、ガヤを無視して進行を続けていく。
 徐々に罵り合いが本格化し、あっという間に大多数が罵る状態となった。
「卓球部、勝ったって話を全然聞かないよな」
「成績出せない部に金出すなよ!」
「せめて、県大会くらい勝てよ。勝てないなら口出すな!」
「吹奏楽の備品ってなんだよ。楽譜代だろ? なんでこんなにかかんだよ」
「放送部の合宿って、意味わかんないんですけど? この活動、無意味だろ。予算狙いでムダなことすんな」
「ムダムダ。全部ムダ!」
「演劇部って前からあるよね。だったら、衣装もたまってんでしょ。使いまわせば?」
「いい加減、このサークル潰せよ」
「マジで、存在意味がわかんないんですけど」
「弱いとこに金だす必要なし」
「この金額、いくらなんでも贔屓しすぎじゃん!」
「成績ごとにちゃんと予算を割り振れよ!」
 などなど、マモルの声を掻き消すように野次はあがり、それは増え、生徒会の仕事を疑う発言まで飛びだした。
 さらには、調子にのってバカな野次に拍手するヤツらが増える始末。
 これが高校生か。
 体は大人でも、心は小学生以下じゃねえか!
 黙って聞いていた俺は、次第にイライラしてきた。
 ああ、もう。
 なんでこんなにアホばっかなんだよ。
 俺は足を組んだ。
 腕を組み……そして……。
 ここまで予算会が酷いとは想像しなかった。
 これじゃあ、高校生相手というより、躾が出来てないバカ犬の群れだ。
 マモルが声量をあげながらも、淡々としたスタイルを崩すことなく、すべてを読み終えた。
 最後となった剣道部。
 ざっと見たところ、半数強が敵、残りが同情と無関心ってとこだろうか。
「では剣道部、意見があればお願いします」
 リューイチが正々堂々と態度を崩すことなく、剣道部に尋ねた。
 剣道部は男女人数がすくないため、混合となっている。
「特にありません」
 立ち上がって答えたのは女子だった。
「きっこえませーん!」
 前半から悪ノリばかりしていた男子が、ニタニタしながらふざけた声をあげた。
 ソイツには覚えがあった。
 中学、同じバレボール部で、先輩の腰巾着だったヤツだ。
 大して強くないのに、あることないこと先輩に告げ口をしまくって、レギュラーの座を少しでも早く射止めようとした。
 ソイツのせいで、俺もリューイチも1年のとき、散々先輩たちに呼びだされた。ヤツらが引退するまで、無実の罪による罰掃除や、追加練習や、練習試合のスタメン外しなど、被害に遭ってきた。
 中学3年のインハイ前には、自分の実力不足と協調のなさを棚に上げ、自分がレギュラーじゃないのは主将のリューイチと副主将の俺による陰謀だと、学校中に噂を広めた。お陰で、俺とリューイチは顧問と一緒に校長室へ呼びだされた。
 イジメとは違うが、こういうバカと、こういうバカに乗っかるアホがいるから、会議がムダにバトルんだ。
 イヤな思い出を蒸し返された俺は、ドロドロしたものが腹や胸に溜まり、それが喉へと溢れるのを感じた。
「特にありません」
 さっき答えた女子の隣にいた男子が、軽く手をあげて答えた。
「何庇ってんの? 男女一緒に仲良く部活かよ。だから弱いんだよ。お前らデキてんの? いいよな~。寂しい俺たちとは違ってさ」
「俺らんとこ、女子一人もいないもんな。美人マネ欲しいよな~」
「生徒会に入れよ。可愛い子や美人がいたら、即手伝い名目で加入させ、ワイワイウハウハだぜ」
「確かに~っ」
 バカを中心とした一角が、ゲラゲラと笑いだした。
 俺は舌打ちすると立ち上がった。
 マジでムカつく。
 ニコちゃんたちが頑張って作ってくれた冊子を丸め、読みもしないまま野次を飛ばすメガホン代わりにしてんじゃねえよ。
 バカは相手にしない。
 そう、みんなで決めてたけど、ゴメン。
 生徒会とニコちゃんたちを貶めるようにバカにされたら、もう我慢出来ない。
 俺は、両掌で力いっぱいテーブルを叩いた。